特許案の進歩性
目次
既存技術の組み合わせで進歩性を出す
・阻害要因の存在、それを通常の技術努力を超えた工夫により解決
技術A(機能xが付与される)
技術B(機能yが付与される)
A+Bの実際(機能x+yの他に副作用zが発生)
追加技術Cによりx,yを保持しつつzを除去
・足し合わせでは予測できない新しい効果
(例)
技術A(指標xは上がる、指標yは下がる)
技術B(指標xは下がる、指標yは上がる)
A+Bの予測:xもyも変化がキャンセル
A+Bの予測できない効果:xもyも上がる
※通常の技術努力の範囲のもの
・単なるパラメーター最適化、
・単なる最適手法の選択
・その阻害要因に対してメジャーな手法
・単なる技術の追加
※通常の技術努力を超えるもの
・通常、トレードオフと捉えられていた複数の指標を両立させるような技術困難の克服
・当業者、当業界での通常の手法や考えとは異なった考え方、手法の採用
・複数の技術要素の高度な統合
・独特なアイディア、工夫、構成がある
足し合わせでは予測できない新しい効果の例
例1: 防水透湿素材の開発(ゴアテックス®)
- 技術A: フッ素系樹脂(PTFE)の防水性
- 防水性は高いが、通気性がほとんどない。
- 技術B: マイクロポーラス構造による通気性の向上
- 微細な孔を持つ構造で通気性を高めるが、防水性が低下する。
- 組み合わせの予測
- 防水性と通気性は相反するため、両立は困難と考えられる。
- 予測できない効果
- フッ素系樹脂をナノレベルの微細孔構造に加工し、水蒸気(気体)は通過させ、水滴(液体)は遮断する素材を開発。
- 防水性と通気性を同時に高いレベルで実現。
例2: 折りたたみ式有機ELディスプレイの開発
- 技術A: 有機ELディスプレイの薄型・柔軟性
- 薄くて柔軟だが、折り曲げには耐えられない。
- 技術B: ポリイミドフィルムの高耐久性
- 耐久性は高いが、光透過性が低い。
- 組み合わせの予測
- ポリイミドフィルムを使用すると表示品質が低下する可能性がある。
- 予測できない効果
- 透明ポリイミドフィルムと特殊コーティング技術を組み合わせ、折りたたみ可能で高品質な表示を実現。
例3: 医療用ナノキャリアによるドラッグデリバリーシステム
- 技術A: リポソームを用いた薬物運搬
- 薬物を運ぶが、制御性に限界がある。
- 技術B: 磁性ナノ粒子による外部制御
- 外部磁場で制御可能だが、薬物運搬能力は低い。
- 組み合わせの予測
- 組み合わせても生体内での安定性や制御精度に問題が生じる可能性がある。
- 予測できない効果
- 磁性ナノ粒子をリポソーム内部に組み込み、外部磁場で制御可能なドラッグデリバリーシステムを開発。
例4: 高強度・高延性を両立した新合金の開発
- 技術A: 高強度合金
- 強度は高いが、延性が低い(脆い)。
- 技術B: 高延性合金
- 延性は高いが、強度が低い。
- 組み合わせの予測
- 特性が相殺され、性能向上は期待できないと考えられる。
- 予測できない効果
- ナノレベルの結晶粒微細化技術と特殊元素の添加により、強度と延性を同時に向上。
例5: リチウムイオン電池のエネルギー密度と安全性の両立
- 技術A: 高エネルギー密度電極材料
- エネルギー密度は高いが、安全性が低い。
- 技術B: 高安全性の電解質材料
- 安全性は高いが、エネルギー密度が下がる。
- 組み合わせの予測
- 効果が相殺され、両立は困難と考えられる。
- 予測できない効果
- 固体電解質と新素材の組み合わせにより、エネルギー密度と安全性を同時に向上。
例6: 自動車のハイブリッドシステム
- 技術A: 内燃機関の高出力エンジン
- 出力は高いが、燃費が悪い。
- 技術B: 電気モーターの高効率性
- 燃費は良いが、出力が低い。
- 組み合わせの予測
- システムが複雑化し、効率が低下する可能性がある。
- 予測できない効果
- エンジンとモーターを高度に連携させる制御システムを開発し、高出力と高燃費を両立。
例7: 触媒反応における選択性と活性の両立
- 技術A: 高活性触媒
- 反応速度は高いが、選択性が低く副生成物が多い。
- 技術B: 高選択性触媒
- 選択性は高いが、反応速度が低い。
- 組み合わせの予測
- 特性が相殺され、効果的な触媒にならないと考えられる。
- 予測できない効果
- ナノ構造レベルで活性部位と選択性制御部位を統合し、反応速度と選択性を同時に高めた触媒を開発。
阻害要因の存在、それを通常の技術努力を超えた工夫により解決
例1: 青色発光ダイオード(LED)の開発
- 技術A: 半導体材料による赤色・緑色LEDの実現
- 赤色や緑色のLEDは既に実用化されていた。
- 技術B: 高エネルギーバンドギャップ材料の使用
- 青色発光には広いバンドギャップを持つ材料が必要である。
- 阻害要因の存在
- 窒化ガリウム(GaN)などの高バンドギャップ材料の高品質結晶を生成することが技術的に困難であった。
- 通常の技術努力を超えた工夫による解決
- 低温でのバッファ層成長技術を開発し、高品質なGaN結晶の作製に成功。
- 新しいドーピング技術と電極構造を導入。
- 予測できない効果
- 高効率な青色LEDの実現により、フルカラーのディスプレイや白色LED照明の開発が可能となった。
例2: マルチタッチスクリーン技術の開発
- 技術A: 単一接点のタッチスクリーン技術
- 一度に一つの入力しか検出できなかった。
- 技術B: 静電容量方式のタッチ検出
- 感度は高いが、多点検出が困難であった。
- 阻害要因の存在
- 同時に複数のタッチポイントを正確に識別する技術的課題があった。
- 通常の技術努力を超えた工夫による解決
- 新しいセンサー配置と高度な信号処理アルゴリズムを開発。
- 個々のタッチポイントを同時に検出・追跡する技術を実現。
- 予測できない効果
- マルチタッチ操作による直感的なユーザーインターフェースが可能となり、デバイス操作の革新をもたらした。
例3: mRNAワクチンの開発
- 技術A: mRNAを用いた抗原発現技術
- mRNAを体内に導入して目的のタンパク質を生成。
- 技術B: リピッドナノパーティクル(LNP)によるデリバリー
- 薬物や遺伝子を細胞内に届ける技術。
- 阻害要因の存在
- mRNAは不安定で分解されやすく、免疫系による排除も問題であった。
- 通常の技術努力を超えた工夫による解決
- 修飾ヌクレオシドを使用し、mRNAの安定性と免疫反応を調整。
- 最適化されたLNPを開発し、効率的な細胞内送達を実現。
- 予測できない効果
- 高い有効性と安全性を持つワクチンの迅速な開発が可能となり、新たな予防接種の形態を確立。
例4: カーボンナノチューブ強化複合材料の開発
- 技術A: 樹脂材料の軽量性と加工性
- 軽くて成形が容易だが、機械的強度が低い。
- 技術B: カーボンナノチューブの高強度・高弾性率
- 非常に強固だが、分散性が悪く加工が難しい。
- 阻害要因の存在
- カーボンナノチューブを樹脂中に均一に分散させることが困難で、材料特性が発揮できなかった。
- 通常の技術努力を超えた工夫による解決
- 表面修飾や分散剤の開発により、ナノチューブの均一分散を実現。
- 樹脂との界面結合を強化するための化学的処理を導入。
- 予測できない効果
- 軽量で高強度な複合材料が実現し、航空宇宙や自動車などの分野で性能向上に寄与。
例5: 耐指紋性と高光沢を両立したディスプレイパネル
- 技術A: 高光沢コーティング
- 鮮明な表示が可能だが、指紋が目立ちやすい。
- 技術B: 指紋防止コーティング
- 指紋は付きにくいが、表面がマットになり光沢が低下。
- 阻害要因の存在
- 高光沢と指紋防止は相反する特性で、同時に実現することが困難だった。
- 通常の技術努力を超えた工夫による解決
- ナノテクノロジーを活用し、表面に特殊な微細構造を形成。
- 親水性と疎水性を持つ分子を組み合わせたコーティングを開発。
- 予測できない効果
- 高光沢を維持しながら指紋が付きにくい表面を実現し、ユーザー体験を向上。
例6: 高効率・低公害のディーゼルエンジンの開発
- 技術A: 高圧縮比エンジン
- 燃費効率は高いが、NOx排出量が増加。
- 技術B: 排出ガス再循環(EGR)システム
- NOxを低減するが、エンジン効率が低下。
- 阻害要因の存在
- エンジン効率と排出ガス浄化性能の両立が困難。
- 通常の技術努力を超えた工夫による解決
- 高精度な燃料噴射制御とターボチャージャー技術を組み合わせ、最適な燃焼を実現。
- 新しい触媒システムを開発し、排出ガスを効果的に処理。
- 予測できない効果
- 燃費性能と環境性能を同時に向上させたディーゼルエンジンを実現。
例7: 長寿命・高容量のリチウム空気電池の開発
- 技術A: リチウム空気電池の高エネルギー密度
- エネルギー密度は高いが、サイクル寿命が短い。
- 技術B: 電解質の安定化技術
- 寿命は延びるが、エネルギー密度が低下。
- 阻害要因の存在
- 電池反応中に生じる副反応が電池性能を劣化させる。
- 通常の技術努力を超えた工夫による解決
- 新規の電解質と触媒を開発し、副反応を抑制。
- 空気極の設計を最適化し、酸素の供給と反応効率を向上。
- 予測できない効果
- 高エネルギー密度と長寿命を両立したリチウム空気電池を実現し、電気自動車の航続距離延長に貢献。
阻害要因除去はしてるものの進歩性が認められない例
例1: スマートフォンケースに耐衝撃性を追加
- 技術A: スマートフォンケース
- デザイン性や薄型化を重視したケース。
- 技術B: 衝撃吸収素材の使用
- 衝撃からデバイスを守る素材。
- 阻害要因の存在
- 衝撃吸収素材を用いるとケースが厚くなり、デザイン性が損なわれる。
- 阻害要因の除去
- 薄型の衝撃吸収素材を採用し、デザイン性を維持。
- 進歩性が認められない理由
- 薄型の衝撃吸収素材は既に公知であり、その採用は当業者が容易に想到できる範囲内である。
例2: 自動車のワイパーブレードに撥水コーティングを追加
- 技術A: ワイパーブレード
- 標準的なゴム製のブレード。
- 技術B: 撥水コーティング技術
- 表面にコーティングを施し、水を弾く性質を持たせる。
- 阻害要因の存在
- ゴム素材に撥水コーティングを施すと、コーティングの密着性が低下する。
- 阻害要因の除去
- ゴム素材に適したプライマーを使用し、コーティングの密着性を向上。
- 進歩性が認められない理由
- コーティングの密着性向上のためにプライマーを使用することは当業者にとって周知の技術であり、特別な創意工夫がない。
例3: ノートパソコンのキーボードに防水機能を追加
- 技術A: ノートパソコンのキーボード
- 標準的なキーボード構造。
- 技術B: 防水シートの使用
- 電子機器を水から保護するためのシート。
- 阻害要因の存在
- 防水シートを追加すると、キーボードの打鍵感が損なわれる。
- 阻害要因の除去
- 薄型で柔軟性の高い防水シートを採用し、打鍵感を維持。
- 進歩性が認められない理由
- 薄型防水シートの使用は当業者が容易に想到できる範囲であり、技術的困難の克服や予測できない効果がない。
例4: スマートウォッチに心拍数モニターを搭載
- 技術A: スマートウォッチ
- 時刻表示や通知機能を持つ。
- 技術B: 心拍数モニターセンサー
- 心拍数を計測するセンサー。
- 阻害要因の存在
- センサーを搭載するとバッテリー消費が増大する。
- 阻害要因の除去
- 省電力型のセンサーを採用し、バッテリー寿命を維持。
- 進歩性が認められない理由
- 省電力センサーの採用は当業者が通常行う設計上の工夫であり、進歩性が認められない。
例5: デジタルカメラに手ブレ補正機能を追加
- 技術A: デジタルカメラ
- 基本的な撮影機能を持つ。
- 技術B: 手ブレ補正機能
- 手ブレを検知して画像を安定化する機能。
- 阻害要因の存在
- 手ブレ補正機能を搭載するとコストが増加する。
- 阻害要因の除去
- コストを抑えた簡易的な手ブレ補正アルゴリズムを開発。
- 進歩性が認められない理由
- コスト削減のための簡易アルゴリズム開発は当業者が通常行う範囲であり、特別な技術的困難の克服がない。
予測できない新しい効果は出してるが進歩性が認められない例
例1: 新規な組成の化粧品による肌の改善効果
- 技術A: 従来の保湿成分であるヒアルロン酸の使用
- 肌の保湿効果がある。
- 技術B: 植物エキスの添加
- 肌の抗酸化作用が期待できる。
- 予測できない新しい効果
- ヒアルロン酸と特定の植物エキスを組み合わせたところ、シミやくすみが大幅に改善された。
- 進歩性が認められない理由
- 組み合わせ自体は当業者が容易に想到できる範囲であり、予測できない効果が得られたとしても、その効果は偶然の産物とみなされ、技術的な創意工夫が認められない。
例2: 特定の組み合わせによる機械の耐久性向上
- 技術A: 高強度鋼材の使用
- 機械部品の強度を高める。
- 技術B: 特殊な熱処理技術
- 材料の硬度を調整する。
- 予測できない新しい効果
- 高強度鋼材に特殊な熱処理を施すことで、耐摩耗性が飛躍的に向上。
- 進歩性が認められない理由
- 高強度鋼材と熱処理技術の組み合わせは当業者が通常行う範囲であり、得られた効果が予測できなかったとしても、特別な技術的困難の克服や独自性がない。
例3: 食品添加物の組み合わせによる風味の向上
- 技術A: 既存の甘味料Aの使用
- 甘味を付与する。
- 技術B: 既存の甘味料Bの使用
- 別のタイプの甘味を付与する。
- 予測できない新しい効果
- 甘味料AとBを特定の比率で組み合わせると、シナジー効果で甘味が倍増し、風味が大幅に向上。
- 進歩性が認められない理由
- 異なる甘味料を組み合わせることは当業者が一般的に行う手法であり、その比率の調整も試行錯誤の範囲内とみなされる。
例4: ソフトウェアアルゴリズムの改良による性能向上
- 技術A: 既存の検索アルゴリズム
- データ検索を効率的に行う。
- 技術B: 既存のデータ圧縮技術
- データ量を削減する。
- 予測できない新しい効果
- 検索アルゴリズムにデータ圧縮技術を組み込むことで、処理速度が予想以上に向上。
- 進歩性が認められない理由
- アルゴリズムの組み合わせは当業者が容易に想到でき、得られた効果は最適化の結果とみなされ、独自性が不足している。
例5: 医薬品の組み合わせによる副作用の軽減
- 技術A: 医薬品X
- 病気の症状を改善するが、副作用が強い。
- 技術B: 医薬品Y
- 別の作用機序で効果を発揮する。
- 予測できない新しい効果
- 医薬品XとYを併用することで、副作用が大幅に軽減され、治療効果が向上。
- 進歩性が認められない理由
- 複数の医薬品を併用して副作用を抑える試みは一般的であり、その組み合わせも当業者が容易に想到できる範囲。
例6: 既存材料の混合による新機能の発現
- 技術A: 材料Aは高い導電性を持つ。
- 技術B: 材料Bは高い耐熱性を持つ。
- 予測できない新しい効果
- 材料AとBを混合することで、導電性と耐熱性を両立し、さらに超電導性が発現。
- 進歩性が認められない理由
- 材料の混合は当業者が通常行う試行錯誤の一環であり、超電導性の発現は偶然の結果とみなされ、特別な技術的工夫がない。
例7: 農薬の組み合わせによる効果の増強
- 技術A: 農薬Aは特定の害虫に効果がある。
- 技術B: 農薬Bは別の害虫に効果がある。
- 予測できない新しい効果
- 農薬AとBを組み合わせると、両方の害虫に対する効果が倍増し、耐性も発現しにくくなる。
- 進歩性が認められない理由
- 異なる農薬を組み合わせることで効果を高める手法は一般的であり、当業者が容易に想到できる。